急性脳スライスの機能解析
パッチクランプ電気生理法は、神経科学と細胞生理学において細胞の電気的特性を調べる中核技術であり、特に神経細胞の電気活動を精密に測定するためのゴールドスタンダードです。脳スライス・パッチクランプでは、新鮮な切片内の神経細胞をその場で記録し、単一細胞レベルの分解能と局所組織構造の保持を両立させます。分子機構と回路機能を結び付ける手法として、形態が良好に保たれた健全な神経細胞を含む急性切片の作製を目指します。
急性脳スライスモデルにパッチクランプとカルシウムイメージングを組み合わせ、神経細胞の受動的・能動的膜特性、シナプス伝達と可塑性、局所神経回路の発火活動を解析し、神経科学研究と創薬を支援します。
げっ歯類の急性切片では、以下を含む幅広い領域で電気生理学的記録に対応します。
- 大脳皮質、海馬、線条体、青斑核、視床、扁桃体
- 背側縫線核、中脳水道周囲灰白質、小脳、脊髄
- 黒質、迷走神経背側運動核、腹側被蓋野

パッチクランプ:受動的膜特性
- 入力抵抗
- 膜容量
- アクセス抵抗
- 静止膜電位(RMP)
パッチクランプ:能動的膜特性
- レオベース(発火に必要な最小電流)
- 活動電位閾値
- 活動電位振幅
- 発火頻度
- 電位依存性イオンチャネル
- リガンド作動性イオンチャネル
- Gタンパク質共役型受容体(GPCR)による調節
パッチクランプ:シナプス伝達と可塑性
- 誘発応答
- 微小電流
- 自発電流
カルシウムイメージング
小規模な神経細胞集団で活動関連カルシウムシグナルを記録し、発火に関連する活動を評価します。カルシウムシグナルは電気活動の間接的な指標であり、膜電位の直接記録ではありません。
主な用途
- 標的の機能検証:イオンチャネルや受容体を介する電流を記録し、遺伝子編集または薬剤処理後の標的機能を評価します。
- 薬剤の電気生理学的作用評価:生理状態に近い条件で、神経興奮性やシナプス伝達に対する調節作用を調べます。
- 疾患モデルの機序研究:疾患動物モデルの特定脳領域における神経細胞の機能異常を解析します。
- シナプス可塑性研究:長期増強(LTP)と長期抑圧(LTD)を誘導・記録し、学習・記憶に関連する機構を調べます。
脳スライス・パッチクランプ記録サービス
標準的な工程では、急性切片を作製・回復させた後、酸素化人工脳脊髄液(ACSF)を満たした記録チャンバーへ移します。顕微鏡下で標的神経細胞を同定し、マイクロマニピュレーターでガラス電極を細胞膜に接触させ、高抵抗シールを形成して電気活動をリアルタイムに記録します。単一または少数の細胞から詳細な機能情報を得ることで、細胞機構の理解を深めるとともに、多数の動物への依存を抑えることにつながります。
マウス、ラット、非ヒト霊長類および脳オルガノイドの切片を対象に、海馬をはじめとする複数領域の機能研究を支援します。モデル、領域、試料調製と測定項目の適合性は試験ごとに確認し、すべてのモデルで全項目を測定できることを前提とはしません。
- イオンチャネル機能:ナトリウム、カリウム、カルシウム、クロライドチャネルを含む電位依存性・リガンド作動性電流、およびグルタミン酸・GABA受容体を介する電流を記録します。
- シナプス機能:興奮性・抑制性シナプス後電流(EPSC・IPSC)を記録し、シナプス伝達と薬理学的介入の影響を評価します。
- 神経興奮性:電流固定法で活動電位の発火特性、閾値、抵抗を測定します。試料との適合性を確認したうえで、光遺伝学的・化学遺伝学的刺激との併用に対応します。
- シナプス可塑性:LTP、LTD、ペアパルス比(PPR)の誘導・記録により、学習・記憶機構やシナプス調節経路を解析します。
測定項目と試験設計
電流固定法では、静止膜電位、活動電位の閾値、発火頻度、電流注入に対する応答などを評価します。電位固定法では、対象とするイオンチャネル電流や自発性・微小シナプス電流を解析し、測定目的に応じて記録条件と薬理学的な分離方法を設定します。
- 脳領域、動物の週齢、遺伝型・疾患モデル、対象細胞を切片作製前に明確にします。
- シナプス機能の評価では、刺激部位、保持電位、EPSC・IPSCや可塑性の測定項目を設定します。
- 測定区間、溶媒対照、投与条件、生物学的反復を定め、条件間を比較します。
記録品質と納品データ
切片の生存状態、回復条件、測定温度、シール品質、アクセス抵抗を確認し、記録の採用基準と除外理由を明示します。不安定な記録を安定した記録と同等に扱うことはありません。
代表波形、電気生理学的指標、群間比較、試料調製・測定・解析条件をまとめた報告書を提供します。脳切片は局所回路を保持しますが、生体脳全体の結合や全身環境を再現するものではありません。

